片頭痛治療の新たなパラダイムシフトとして注目される、国内初の「1剤2役」経口CGRP受容体拮抗薬、ナルティーク(一般名:リメゲパント硫酸塩水和物)について詳しく解説します。これまで片頭痛の薬物療法は、痛みが起きた時に飲む「急性期治療薬」と、頻度を減らすために毎日飲む「予防療法薬」に明確に分かれていました。しかし、2025年12月に発売されたナルティークは、飲むタイミングによってその両方の役割を果たすという、これまでの常識を覆す特性を持っています。この記事では、薬剤師が現場で直面する運用上の注意点や、製剤上の特殊性、適切な服薬指導のポイントを網羅的にまとめています。
ナルティークの開発経緯と製品名の由来
ナルティークは神経科学技術を象徴する名で海外実績も継承。
ナルティーク(Nurtec)という製品名は、英語の「Neural(神経の)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語に由来しています。これは、神経科学の知見と技術を駆使して開発された薬剤であることを象徴しています。海外ではすでに「Nurtec ODT」という名称で広く使用されており、日本でもその実績を引き継ぐ形でこの名称が採用されました。一般名はリメゲパント硫酸塩水和物であり、経口のCGRP関連製剤として臨床的な期待を集めています。
ナルティークの製品・薬剤の特性:1剤2役の柔軟性
ナルティークは服用タイミングで急性期と予防を1剤で担える。
ナルティークの特性は、大きく分けて3つのポイントに集約されます。第一に、日本で初めて「急性期治療」と「発症抑制」の両方に適応を持つ経口薬である点です。これにより、患者さんの状態に合わせて「痛い時だけ飲む」使い方も、「1日おきに飲んで予防する」使い方も可能となりました。第二に、注射剤と同じCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という病態の軸に対し、経口薬でアプローチできる点です。第三に、製剤面での繊細さです。本剤はOD錠(口腔内崩壊錠)ですが、非常に柔らかく割れやすい性質を持っています。さらに吸湿性が極めて高いため、ブリスターシートから取り出す際は、裏面のシートを完全に剥がしてから取り出す必要があります。指で押し出すと錠剤が砕けてしまうため、患者さんには「絶対に押し出さないこと」を徹底して指導する必要があります。
ナルティークの作用機序:CGRP受容体へのアプローチ
リメゲパントはCGRP受容体を遮断し血管収縮なしで片頭痛を抑える。
ナルティークの有効成分であるリメゲパントは、CGRP受容体拮抗薬です。片頭痛のメカニズムには、三叉神経の末端から放出されるCGRPが深く関わっています。このCGRPが血管や神経にある「CGRP受容体」に結合することで、血管が拡張し、炎症が引き起こされ、激しい痛みとして認識されます。リメゲパントは、この受容体に対して先回りして強力に結合します。受容体をあらかじめブロックすることで、CGRPのシグナル伝達を阻害し、血管の過度な拡張や神経の炎症を抑制します。トリプタン製剤のように血管を直接収縮させる作用を持たないため、血管収縮によるリスクを考慮すべき症例においても検討しやすい薬剤です。
薬物動態・服用タイミング:水なし服用の重要性
ナルティークは水なし服用が推奨で予防は隔日リズム固定が有効。
薬物動態において、血中濃度が最大に達する時間($T_{max}$)は約1.5時間、消失半減期($T_{1/2}$)は約11時間です。この比較的長い半減期が、1日おきの服用による予防効果の維持を可能にしています。服用方法には独自のルールがあります。本剤は唾液だけで瞬時に崩壊するように設計されており、水で服用した場合のデータが得られていません。水で流し込むと吸収プロセスに影響を与える可能性があるため、水なしでの服用が強く推奨されています。急性期治療として使う場合は「頭痛の初現時」に服用します。予防として使う場合は、1日おきのリズムを定着させるため、曜日固定(例:月・水・金・日)などの提案が飲み忘れ防止に有効です。
用法・用量:1日1錠の厳守と処方制限
ナルティークは1日1錠上限で予防日も追加投与は不可。
ナルティークの用法・用量は以下の通りです。片頭痛発作の急性期治療: 成人1回75mgを片頭痛発作時に服用片頭痛の発症抑制: 成人1回75mgを1日おきに服用現場で最も注意すべきは、「1日あたりの総投与量は75mg(1錠)を超えないこと」です。予防目的で服用している日に発作が起きても、追加で飲むことはできません。また、急性期として服用し効果が不十分な場合でも、同日中の追加投与は認められていません。なお、新薬のため当面は「14日分制限」が適用されます。予防目的(隔日投与)の場合は、処方日数は14日分であっても、錠数は「7錠」となる点に注意が必要です。
禁忌・併用禁忌・相互作用
ナルティークは重度腎肝障害とCYP3A4/P-gp相互作用に注意。
禁忌は、本剤の成分に対し過敏症の既往歴がある患者さんです。また、重度の腎機能障害や重度の肝機能障害がある患者さんへの投与も避ける必要があります。相互作用については、リメゲパントが主に代謝酵素 CYP3A4 で代謝され、トランスポーター P-gp の基質となる点を意識する必要があります。強い CYP3A4 阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど): 本剤の血中濃度を著しく上昇させるおそれがあります。強い CYP3A4 誘導剤(リファンピシンなど): 本剤の効果を減弱させる可能性があります。お薬手帳を確認し、これらの代謝系に干渉する薬剤の有無を入念にチェックすることが求められます。
安全性・副作用:遅延性過敏症への注意
ナルティークは数日後に出る遅延性過敏症まで説明が必須。
主な副作用として、悪心(吐き気)、便秘、下痢などの消化器症状が報告されています。重大な副作用には、ショックやアナフィラキシーを含む過敏症があります。特に注意すべきは、過敏症の「遅延性」です。服用直後だけでなく、数日後に症状が現れるケースが報告されています。服薬指導の際は、「飲んだ直後に何もなければ安心」と思わず、数日以内に発疹や呼吸困難などの異変を感じた場合は直ちに受診するよう伝えることが重要です。また、直接的な血管収縮作用はないものの、心血管系事象についても慎重な観察が推奨されます。
他剤との比較・使い分け
ナルティークはトリプタン不適の急性期や注射抵抗の予防に有用。
急性期において、ナルティークは血管収縮作用を持たないため、心血管リスクによりトリプタン製剤が使いにくい患者さんへの新たな選択肢となります。ただし、追加投与ができないため、発作が長引く患者さんには他剤との組み合わせ検討が必要になる場合があります。予防療法においては、注射製剤(CGRP関連抗体製剤)への抵抗感がある方や、コスト面を考慮する方に適しています。経口薬でCGRP軸の予防ができる点は大きなメリットです。
よくある質問(Q&A)
Q&Aは1日1錠上限・水なし・取り出し方を最優先で周知。
Q1:予防で飲んでいる日に頭痛が起きたら、もう1錠飲めますか?
A1:いいえ、1日あたりの総投与量は75mg(1錠)を超えてはならないため、追加服用はできません。
Q2:OD錠なので、水で飲んでも問題ありませんか?
A2:水で服用したデータが得られていないため、唾液で溶かして水なしで服用することが強く推奨されています。
Q3:シートから薬を押し出して取り出してもいいですか?
A3:いいえ、錠剤が非常に柔らかく割れやすいため、裏面のシートを完全に剥がしてから取り出してください。
Q4:14日分制限がある場合、予防投与(隔日)では何錠まで処方されますか?
A4:1日おきの服用となるため、処方箋の記載は7錠となります。
Q5:副作用で特に気をつけるべきことは何ですか?
A5:悪心や下痢などの消化器症状のほか、数日後に現れる可能性のある「遅延性」の過敏症(発疹など)に注意が必要です。
Q6:トリプタン製剤との違いは何ですか?
A6:トリプタンは血管を直接収縮させますが、ナルティークはCGRP受容体をブロックする機序であり、血管収縮作用を持ちません。
Q7:飲み忘れた場合はどうすればよいですか?
A7:予防投与の場合、気づいた時に1回分を服用し、その後は再び1日おきのリズムで服用してください。2回分を一度に飲んではいけません。
Q8:腎機能が悪い患者でも服用できますか?
A8:重度の腎機能障害がある患者さんへの投与は避ける必要があります。
Q9:どのような薬との飲み合わせに注意が必要ですか?
A9:イトラコナゾールやクラリスロマイシンなどの強いCYP3A4阻害剤や、リファンピシンなどの誘導剤との併用に注意が必要です。
Q10:服用後、どのくらいで効果が出てきますか?
A10:血中濃度が最大に達する(Tmax)まで約1.5時間とされていますが、個人の状態により異なります。
まとめ:ナルティークの適正使用に向けて
ナルティークは1日1錠厳守と水なし服用を徹底し安全に活用する。
ナルティークは、経口のCGRP受容体拮抗薬として、片頭痛の「急性期治療」と「発症抑制」の2つの適応を持つ画期的な薬剤です。服薬指導における最重要ポイントは、「1日1錠の上限遵守」「追加投与不可」「水なし服用と特殊な取り出し方」「遅延性過敏症への警戒」の4点です。当面は14日分の処方制限がありますが、注射製剤に代わる、あるいは補完する新しい選択肢として、患者さんのQOL向上に大きく寄与することが期待されます。正しい知識を共有し、適切な薬物療法をサポートしていきましょう。
