不眠症治療の新たな標準(ゴールドスタンダード)として、臨床現場で最も処方される機会の多い薬剤の一つがデエビゴ(一般名:レンボレキサント)です。
従来の睡眠薬とは一線を画す「覚醒システムを抑える」というアプローチにより、自然な眠りへと導くこの薬剤は、翌朝への持ち越しや依存性の不安を抱える患者さんにとって大きな希望となっています。
本記事では、デエビゴの作用機序から、食事による影響、他剤との使い分けまで、薬剤師が実務で押さえておくべきポイントを網羅的に解説します。
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デエビゴ開発の経緯:オレキシン発見から睡眠薬のパラダイムシフトへ
オレキシン発見が不眠治療を変えた。

デエビゴ(一般名:レンボレキサント)は、エーザイ株式会社によって創製された薬剤です。その開発の原点は、1998年に発見された神経伝達物質「オレキシン」にあります。
この発見により、不眠の本質は単に「眠る力が足りない」だけでなく、「起きている力(覚醒系)が強すぎる」状態であるという理解が劇的に進みました。2014年に世界初のオレキシン受容体拮抗薬が登場した後、さらに受容体への結合親和性や薬物動態を最適化することを目指して開発が続けられました。その結実として2020年、日本において承認されたのがデエビゴです。脳全体を強制的に抑制する従来の薬剤とは異なり、覚醒システムだけをピンポイントで抑えるという新しいアプローチが、睡眠薬のパラダイムシフトを起こしました。
製品・薬剤の特性:速やかな入眠と中途覚醒への効果
デエビゴは入眠から中途覚醒まで対応。

デエビゴは、2.5mg、5mg、10mgの3つの規格が用意されたフィルムコーティング錠です。この薬剤の最大の特徴は、オレキシン受容体に対する「速やかな結合と、適切な解離」にあります。
これにより、入眠障害と中途覚醒、さらには早朝覚醒まで、幅広い睡眠の悩みに対応できる設計となっています。また、ベンゾジアゼピン系薬剤とは異なり、筋弛緩作用がほとんどありません。そのため、夜間にトイレに立った際のふらつきや転倒リスクを大幅に軽減できるのが大きな利点です。習慣性医薬品には指定されていますが、これは規制上の分類に過ぎず、臨床試験では離脱症状や反跳性不眠は認められていないため、依存を形成しにくい薬剤であることが示されています。
作用機序:覚醒の蛇口を締める「DORA」の仕組み
DORAは覚醒系を遮断し自然な睡眠へ。
デエビゴの作用点は、脳内の視床下部にあるオレキシン受容体です。オレキシンは、覚醒を維持するために絶え間なく放出されている神経ペプチドであり、これを受容体レベルで遮断します。

オレキシン受容体には、OX1R(オレキシン1受容体)とOX2R(オレキシン2受容体)の2種類が存在しますが、デエビゴはこの両方の受容体に結合してその働きを遮断します。このような薬剤は、デュアルオレキシン受容体拮抗薬、略してDORA(Dora)と呼ばれます。特にOX2Rへの阻害は、入眠を促すのに極めて重要です。一方でOX1Rへの阻害は、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスを整え、睡眠の質を維持する役割を担います。眠気を「増やす」のではなく、覚醒の蛇口を「締める」メカニズムが、自然な睡眠に近い状態を作り出します。
薬物動態・服用タイミング:食事による影響に注意
食後服用で効果遅延、持ち越しリスク増。

デエビゴを適切に使用する上で、薬物動態と食事の関係を正しく理解することは不可欠です。最高血中濃度到達時間(Tmax)は、空腹時であれば約1時間から1.5時間と比較的速やかです。
しかし、食事と一緒に服用するとTmaxが約2時間も遅延し、最高血中濃度(Cmax)も約23%低下します。食後に服用してしまうと「寝付けない」という不満に直結し、さらに薬の効果が後ろにずれることで、翌朝の持ち越し眠気を強めてしまうリスクがあります。指導の際は「必ず寝る直前、かつ食事から十分な時間が経過した状態」での服用を徹底する必要があります。
用法・用量:安全な使用のための基準
基本5mg、肝障害は2.5mg開始が原則。
通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与します。症状により適宜増減しますが、1日1回10mgを超えないこととされています。

臨床試験では就床の5分以内に服用する運用が採られていたため、実務では「寝る直前に飲んで、飲んだらそのまま寝る」ことを基本として説明します。
高齢者: 5mgから開始可能ですが、慎重に増減を検討します。
中等度肝機能障害: 血中曝露量が増大するため、1日1回2.5mgから開始し、最大でも5mgまでにとどめます。 また、服用後に十分な睡眠時間が確保できない場合や、夜中に起きて作業をする予定がある日は、服用を避けるよう指導します。
禁忌・併用禁忌・相互作用:CYP3A4との関わり
CYP3A阻害剤併用は2.5mgに制限。
デエビゴの禁忌および相互作用については、主に肝代謝酵素CYP3A(シトクロムP450 3A)が関与します。

禁忌: 本剤成分への過敏症既往歴がある患者、および重度の肝機能障害がある患者。
併用注意(阻害剤): CYP3Aを強力または中等度に阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、フルコナゾール、ベラパミルなど)と併用する場合、デエビゴの投与量を1日1回2.5mgに制限します。
併用注意(誘導剤): リファンピシンなどの強いCYP3A誘導剤は、デエビゴの効果を著しく弱める可能性があります。 また、アルコールとの併用は中枢抑制作用が増強されるため避ける必要があります。
安全性・副作用:睡眠時麻痺と随伴症
傾眠に加え金縛り・随伴症に注意。
主な副作用として最も頻度が高いのは傾眠(翌朝の眠気)であり、5mg投与で約10%に認められています。

また、オレキシン受容体拮抗薬に特有の副作用として「睡眠時麻痺(金縛り)」や「入眠時の幻覚」が挙げられます。これらはレム睡眠と覚醒の切り替えが不安定になることで起こります。 RMP(医薬品リスク管理計画)上の重要なリスクとしては、意識がはっきりしないまま歩き回る「睡眠時随伴症(夢遊様行動)」や「自殺念慮、自殺行動」が挙げられています。授乳婦については、乳汁への移行が認められているため、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を十分に考慮して判断します。
他剤との比較・使い分け:スボレキサントとの違い
ベルソムラより入眠に速効が期待。
同じDORAであるスボレキサント(ベルソムラ)との比較では、デエビゴはOX2Rへの結合親和性がより高く、入眠困難に対してより速やかに効果が現れる傾向があります。


ベンゾジアゼピン系からの切り替え時には、反跳性不眠による「眠れない」という訴えが出ることがあります。これはデエビゴの薬理作用ではなく、元の薬の中断による影響である可能性があるため、元の薬を漸減しながら焦らず移行を進めることが成功のポイントです。
よくある質問(Q&A)
服用タイミングと相互作用をQ&Aで確認。
Q1:デエビゴを飲んだ後、いつ頃眠くなりますか?
空腹時の服用であれば、通常1時間から1.5時間程度で血中濃度がピークに達します。臨床的には就寝直前(5分以内)の服用が推奨されています。
Q2:食後すぐに飲んでも大丈夫ですか?
食後の服用は効果が出るのが遅れる(Tmaxが約2時間遅延する)ため、寝付けなくなったり、翌朝に眠気が残ったりする可能性があります。空腹時での服用が推奨されます。
Q3:依存性はありますか?
習慣性医薬品に分類されていますが、臨床試験において離脱症状や反跳性不眠は認められておらず、依存を形成しにくい薬剤と考えられています。
Q4:夜中にトイレで起きた時にふらつきませんか?
ベンゾジアゼピン系と異なり筋弛緩作用がほとんどないため、ふらつきや転倒のリスクは低いとされていますが、注意は必要です。
Q5:金縛り(睡眠時麻痺)が起きたのですが、副作用でしょうか?
はい、オレキシン受容体拮抗薬に特有の副作用として報告されています。レム睡眠と覚醒の切り替えが不安定になることで起こる一時的なものです。
Q6:肝臓が悪いと言われていますが、服用できますか?
重度の肝機能障害がある方は禁忌となっています。中等度の場合は、2.5mgからの開始など慎重な投与設計が必要です。
Q7:クラリスロマイシンを処方されましたが、一緒に飲めますか?
クラリスロマイシンはデエビゴの代謝を妨げ血中濃度を上げるため、併用する場合はデエビゴを2.5mgに減量するなどの調整が明記されています。
Q8:お酒と一緒に飲んでもいいですか?
アルコールは中枢抑制作用を増強し、副作用が出やすくなるため、併用は避けてください。
Q9:ベルソムラ(スボレキサント)とは何が違うのですか?
デエビゴの方がOX2Rへの結合親和性が高く、入眠障害に対してより速やかな効果が期待される傾向があります。
Q10:授乳中に飲んでも大丈夫ですか?
乳汁中への移行が報告されています。治療上の有益性と母乳栄養の有益性を医師が判断した上で、慎重に検討されます。
まとめ:デエビゴの適正使用に向けて
空腹状態で就寝直前に服用することが鍵。

デエビゴは、脳の覚醒システムを司るオレキシン受容体をブロックすることで、自然な眠りをサポートする薬剤です。入眠障害と中途覚醒の両方にバランス良く作用し、ふらつきや依存のリスクが低いという、不眠症治療の新たな標準と言える存在です。
食事の影響を受けやすいため、「空腹状態での就寝直前」という服用ルールを徹底することが、そのポテンシャルを最大限に引き出す鍵となります。副作用や潜在的リスクを論理的に理解し、患者さんに適切な期待値を持ってもらうことで、より質の高い睡眠治療を提供できるはずです。

