世界で初めて、注射剤でしか届けることができなかったGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬を、飲み薬として実現した革新的な薬剤が「リベルサス錠(一般名:セマグルチド)」です。これまで自己注射が当たり前だったこのクラスの薬剤が、錠剤として提供可能になったことは、糖尿病治療におけるパラダイムシフトと言えます。
しかし、その特殊な吸収メカニズムゆえに、服薬指導には極めて緻密なルールが求められます。
本記事では、製造販売元のノボ ノルディスク ファーマ株式会社による情報に基づき、リベルサス錠の臨床知識を詳しく解説します。
リベルサス錠とは:世界初の経口GLP-1受容体作動薬
リベルサス錠は世界初の経口GLP-1受容体作動薬。

リベルサス錠は、2型糖尿病治療薬として承認された世界初の経口GLP-1受容体作動薬です。
主成分のセマグルチドは本来ペプチド製剤であり、胃酸や酵素によって分解されてしまうため、これまでは経口投与が不可能とされてきました。
リベルサスはこの大きな壁を特殊な技術で乗り越え、注射への心理的ハードルが高かった患者さんにとっても有力な選択肢となりました。
現在、3mg、7mg、14mgの3つの規格が展開されています。
ダイエット目的で使用する危険性と適正使用の重要性
リベルサス錠は2型糖尿病治療薬で適応外使用は危険。

リベルサスは、あくまで「2型糖尿病」の治療を目的とした医薬品です。
近年、SNS広告やオンライン診療で「やせ薬」として扱われるケースも見られますが、糖尿病以外の方が服用した場合の安全性や有効性は確立されておらず、日本糖尿病学会や製薬会社も強い懸念を表明しています。
膵炎や激しい胃腸障害などの健康被害リスクを冒してまで治療目的外で使用することは、医学的に見て極めて危険な行為です。
また、こうした不適切な使用は、真に薬を必要とする糖尿病患者さんへの供給に支障をきたす倫理的問題も孕んでいます。
さらに、薬だけで痩せようとすると体脂肪だけでなく筋肉も落ちやすく、服用中止後に食欲が戻る一方で代謝が落ちた状態となり、以前より脂肪を蓄えやすい「リバウンド体質」になり得ます。結局は生活習慣の見直しが重要です。
リベルサス錠の特性:画期的なSNAC技術による胃での吸収
SNAC配合で胃内保護と胃粘膜吸収を両立する。

リベルサスの最大の特徴は、吸収促進剤SNAC(サルカプロザートナトリウム)を配合している点にあります。
この技術には主に2つの役割があります。一つは、胃内の局所的なpHを上昇させることで胃酸を中和し、セマグルチドをペプシンによる分解から保護することです。
もう一つは、胃粘膜からの透過性を高め、血流への吸収を促進することです。従来の小腸吸収製剤とは異なり、胃での吸収を実現したこの技術こそが、リベルサスを唯一無二の経口GLP-1製剤にしています。

また、一般名セマグルチドは注射剤のオゼンピックと同じ成分であり、(2026年現在)経口GLP-1受容体作動薬として特徴づけられます。

さらに、本剤は吸湿性が極めて高いため、服用直前にPTPシートから取り出す必要があり、一包化は不可です。原則としてミシン目以外の部分で切り離すことは避ける必要があります。
リベルサス錠の作用機序:血糖依存的なインスリン分泌促進
血糖依存的にインスリン分泌を促し低血糖リスクが低い。

有効成分のセマグルチドは、ヒトGLP-1アナログとして体内の受容体に結合します。
まず膵臓に作用し、血糖値が高い時だけインスリン分泌を促進します。
この「血糖依存的」な働きにより、単独使用での低血糖リスクが低いという特性が生まれます。
同時にグルカゴン分泌を抑制し、肝臓からの過剰な糖放出を抑えます。
さらに、胃内容排出を遅延させることで食後の急激な血糖上昇を抑え、満腹感を長持ちさせる効果も期待できます。
薬物動態:主に胃で吸収される特殊な性質
食事・水分の影響が大きく服薬ルール遵守が必須。

リベルサスの薬物動態は非常にデリケートであり、主に胃で吸収されます。
胃内に飲食物や水分があると吸収機構が働きにくくなるため、食事や水分の影響を強く受け、厳密な服薬遵守が不可欠です。
半減期は約1週間と長く、1日1回の服用で安定した血中濃度を維持できますが、濃度が安定する「定常状態」に達するまでには4〜5週間の時間を要します。
治療効果を判定する際は、この緩やかな立ち上がりの時間を考慮する必要があります。
また、最高血中濃度に達するまでの時間はおよそ1時間です。
用法・用量:効果を引き出すための「最重要」ルール
起床時空腹で水120mL以下、30分は飲食・他剤禁止。

リベルサスの効果を確実に得るためには、以下の厳格な服用ルールを必ず守らなければなりません。
1日の最初の食事や飲水の前に、空腹の状態で1錠を服用してください。服用時の水は約120mL(コップ約半分)以下とし、服用後少なくとも30分間は、飲食および他剤の服用を避ける必要があります。
水が多すぎると吸収に悪影響を及ぼす可能性があります。これらのルールが守られない場合、吸収が大きく低下し、効果が著しく弱まる可能性があります。
また、本剤は吸湿性が極めて高いため、PTPシートから出さずに保管し、服用直前に取り出す必要があります。錠剤を分割したり、砕いたり、噛んだりして服用してはいけません。
もし朝に飲み忘れて、すでに朝食を食べてしまったら、その日はもう服用しないでください。
1日分を飛ばして翌朝から正しく再開し、2日分をまとめて飲んではいけません。
禁忌・併用禁忌および注意が必要な併用薬
禁忌と相互作用を押さえ、併用時は低血糖に注意する。

成分に対する過敏症の既往がある方は禁忌です。また、1型糖尿病や糖尿病性ケトアシドーシスなどの患者さんは、インスリン治療が必須となるため本剤の使用は適しません。
さらに、重症感染症や手術前後の場合も本剤の投与は適しません。重要な相互作用として、甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン製剤)やビスホスホネート系薬剤が挙げられます。
また、インスリン製剤やSU剤(スルホニル尿素剤)と併用する場合は、低血糖リスクが高まるため必要に応じて減量を検討します。加えて、本剤とDPP-4阻害剤はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しており、両剤を併用した際の臨床試験成績はなく、有効性及び安全性は確認されていません。
同時に処方されていた場合は疑義照会が必要です。

妊娠を予定する女性(2ヵ月以内に妊娠を予定する女性)には本剤を投与せず、インスリンを使用すること、とされています。
安全性と副作用:胃腸障害と低血糖への警戒
胃腸障害が多く、膵炎や腸閉塞など重篤例に注意。

主な副作用は胃腸障害であり、悪心、下痢、便秘などが多く見られます。
これらは投与初期や増量時に現れやすいですが、副作用軽減のため、3mg(4週間)→7mg(維持量)→14mg(必要時)と段階的に増量する「漸増法」が取られます。
7mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合に14mgへ増量することがあります。重大な副作用としては、激しい腹痛や嘔吐を伴う急性膵炎や、高度な便秘から至る腸閉塞(イレウス)に注意が必要です。
他剤との併用時には、冷や汗や動悸などの低血糖症状にも警戒が必要です。
他剤との比較・使い分け:経口剤の強みと他剤の特性
経口の利点と注射剤の強みを踏まえ適切に使い分ける。

同効薬との比較において、リベルサスの最大の強みは「経口剤であること(非侵襲的)」にあり、自己注射に抵抗感がある患者さんの治療選択肢を大きく広げます。
一方で、同じセマグルチド製剤でも、オゼンピック皮下注は週に1回の注射で済むため、「毎日飲む」か「週1回の注射」かで選択が変わります。

また、注射剤であるマンジャロ(GIP/GLP-1受容体作動薬)は、デュアルアゴニストとしてより強力な血糖降下作用と体重減少効果を示すという特徴があります。

]さらに、DPP-4阻害薬は食事の影響を受けにくい内服薬で副作用も比較的少なめですが、体重減少効果はGLP-1製剤より弱い傾向です。
一般的に血糖低下や体重減少の効果はリベルサスの方が強力ですが、服薬ルールの厳しさはリベルサスの方が上です。
患者さんのライフスタイルや服薬ルールの遵守能力、治療強度に合わせて、これらの薬剤を適切に使い分けることが求められます。
よくある質問(Q&A)
服用は水のみ・少量で、30分は飲食や他剤を避ける。
Q1:お茶やコーヒーで服用してもいいでしょうか?
A1:お茶やコーヒーでの服用は避けてください。成分の吸収に影響を与えるため、必ず水のみで服用してください。
Q2:服用時の水の量に制限はありますか?
A2:はい、重要です。コップ約半分、およそ120mL以下の少なめの水で服用してください。
Q3:3mgで調子が良ければ、そのまま継続してもいいですか?
A3:基本的には3mgを4週間服用した後、維持量である7mgへ増量して継続します。必要に応じて14mgまで増量されることもあります。但し、副作用等で増量できない場合には3mgで継続することもあります。
Q4:朝飲み忘れて朝食を食べてしまいました。昼食前に飲めますか?
A4:いいえ、その日はもう服用しないでください。翌朝の最初の空腹時に正しく再開してください。2日分をまとめて飲んではいけません。
Q5:錠剤が大きくて飲みにくいのですが、割ってもいいですか?
A5:絶対に割ったり砕いたりしてはいけません。吸収を助けるSNACの構造が壊れ、薬の効果が著しく低下します。分割・粉砕は不可です。
Q6:飲み始めに吐き気がするのは異常ですか?
A6:飲み始めや増量時に悪心(吐き気)が出ることがありますが、多くは時間の経過とともに軽減します。激しい痛みがある場合は医師に相談してください。
Q7:ダイエット目的で自費購入しても安全ですか?
A7:2型糖尿病でない方への安全性は確立されておらず、推奨されません。重篤な副作用のリスクがあります。自由診療や個人輸入等で手を出すのはやめましょう。
Q8:薬を保管する際に注意することはありますか?
A8:吸湿性が極めて高いため、服用直前までPTPシートから取り出さないでください。一包化も不可です。原則としてミシン目以外の部分で切り離すことは避ける必要があります。
Q9:服用後すぐに食事をしても大丈夫ですか?
A9:服用後少なくとも30分間は、飲食や他の薬剤の服用を控えてください。すぐに食事をすると吸収が妨げられます。
Q10:効果が出るまでどのくらいの期間がかかりますか?
A10:血中濃度が安定するまでに4〜5週間かかるため、効果判定には一定の期間が必要です。
リベルサス錠(セマグルチド)のまとめ
5つの要点を押さえ、適正使用と服薬遵守を徹底する。
- 世界初・経口GLP-1 2型糖尿病治療薬であり、注射剤と同成分を飲み薬にした画期的な製剤である。
- 厳格な服用方法 「起床時」「空腹時」「水約120mL以下」で服用し、その後「30分間」は飲食禁止である。
- 漸増法 副作用軽減のため、3mg(4週間)→7mg(維持量)→14mg(必要時)と段階的に増量する。
- 保管管理 吸湿性が極めて高いため、PTPシートから出さず、服用直前に取り出す必要がある。
- 適正使用 美容・ダイエット目的の使用は厳禁であり、安全性も確立されていない。


リベルサス錠は、2型糖尿病の血糖管理に有用な一方で、服用方法の遵守が治療効果を大きく左右します。
単独使用では低血糖リスクが低い特性がありますが、併用薬や副作用の兆候には注意し、疑問や不安があれば必ず医師や薬剤師に相談してください。

